私は天使なんかじゃない









遥かなる星の先から見つめる瞳







  遠い星空の向うから見つめる瞳がある。
  無数に。
  無数に。
  無数に。
  それらの瞳は静かに我々を見つめるだけではない。
  静かに地球にやって来ている。
  
  まだ、人類は気付かない。
  その悪意の瞳に。





  フランク・ドレイク。
  アメリカ合衆国の天文物理学者。
  地球外文明の数を推定する『ドレイクの方程式』の提唱者。


  N=R×Fp×Fl×Ne×Fi×Fc×L

  N 我々の銀河系に存在する通信可能な地球外文明の数
  R 我々の銀河系で恒星が形成される速さ
  Fp 惑星系を有する恒星の割合
  Ne 1つの恒星系で生命の存在が可能となる範囲にある惑星の平均数
  Fl 上記の惑星で生命が実際に発生する割合
  Fi 発生した生命が知的生命体にまで進化する割合
  Fc その知的生命体が星間通信を行う割合
  L 星間通信を行うような文明の推定存続期間

  各パラメータの推定
  上記のパラメータの値については様々な見解があるが、ドレイクらが1961年に用いた値は以下のようなものである。

  R = 10 [個/年] (銀河系の生涯を通じて、年平均10個の恒星が誕生する)
  Fp = 0.5 (あらゆる恒星のうち半数が惑星を持つ)
  Ne = 2 (惑星を持つ恒星は、生命が誕生可能な惑星を二つ持つ)
  Fl = 1 (生命が誕生可能な惑星では、100%生命が誕生する)
  Fi = 0.01 (生命が誕生した惑星の1%で知的文明が獲得される)
  Fc = 0.01 (知的文明を有する惑星の1%が通信可能となる)
  L = 10,000 [年] (通信可能な文明は1万年間存続する)

  以上の値を代入すると、N = 10 × 0.5 × 2 × 1 × 0.01 × 0.01 × 10,000 = 10.



  ドレイクの方程式に関し注目すべきことは、上記の各パラメータに妥当だと考えられる値を入れると、多くの場合、Nが1となる。
  この事が地球外知的生命体探査を行う為の強力な動機付けとなる。
  だがこれは矛盾する。
  何故ならこれは現在の観測値である(宇宙には我々人類しかいないように見える)とは矛盾する。
  この矛盾はエンリコ・フェルミによって提唱された『フェルミのパラドックス』として知られているものとなり、地球に住む人類こそが、少なくともこの
  銀河系内においての実際の、唯一の知的生命なのではないかという通説となっていく事になる。
  だが……。



  2066年。冬。
  中国軍のアラスカ侵攻。
  侵攻の目的は高騰の一途を辿る石油資源の確保。
  部隊同士の小競り合いで始まったアラスカ・アンカレッジの激戦は勇敢な2人のアメリカ陸軍の兵士によってアメリカ側の勝利で終結する。
  だがこれで終わりではなかった。
  アンカレッジの戦いはあくまで後の戦いの前哨戦であり、そして全ての発端でしかなかった。
  人類は泥沼の戦争を各地で継続していく。

  2077年。10月23日。
  1発の核爆弾が発射される。誰が最初に撃ったかは分かっていない。アメリカ、中国、そのどちらが最初に攻撃を受けた事すら不明。
  だがこの1発の核爆弾により双方は互いに非難し合い、保有する全ての核爆弾を撃ち合う全面核戦争へと移行していく。
  そして世界は滅亡した。

  世界は荒廃した。
  世界は核の放射能の灰の中に沈んだ。
  それでも人類は争い続ける。
  自らの生存の為に人々は戦い、殺し、奪い、生き抜いていく。
  終末の世界を人々は生きていた。

  2277年。8月17日。早朝。
  ボルトテック社が建造した核シェルター『ボルト101』から1人の男が脱走。その後を追うように、その男の娘もまた脱走した。
  その娘は後の世に『赤毛の冒険者』と呼ばれる少女。



  夜空。
  星の瞬く夜空を見つめてみよう。そして耳を済ませる。
  星の声が聞こえて気がする。
  遥か遠い星空の向うから声が聞こえてくる。
  その声に耳を済ませてみよう。
  その声に……。



  「私はモリソン・ランド博士。オレゴン州にある大学で人類考古学を教えている。2041年8月16日午後10時を回った頃だった。キャンパスを出て私の
  車の向かう時、目の眩む光を見た。そこで意識を失った。……気付いた時、私は眼を疑った。私はエイリアンの捕虜となったのだ」

  「わ、私はアメリカ空軍のハーディガン大佐だ。我が国は有人飛行訓練を行ってきたがエイリアンの事はまったく予想していなかった。……お、おい。何を
  する気だ? ま、待ってくれ、知的生命体同士お互いに学べ事があるはずだ。や、やめろっ!」

  「くそくそくそくそっ! もう解放してくれっ! こんなのまともじゃない、病気だっ! 私は何もしてないし話す事なんて何もないっ! アンカレッジの所為なの
  か誓って言うが私は望んで行ったわけじゃない信じてくれっ! 戦場になんて行きたくなかった、本当はワシントンで働きたかったんだっ!」

  「ナンダコノアリサマハっ! ヨウカイヘンゲカっ! ハナセ、イマスグっ! キコエンノカ、ハナセっ!」

  「妻はどこだ? 息子は? 俺の家族は? ……神に誓うぞ、俺が自由になったらお前らは皆殺しだっ!」

  「防御は軽歩兵の大隊が3つと野戦砲が34砲、装甲車が108台、それから軍用機が42機だ。ICBMが38基、ホワイトハウスから発射命令があればすぐに中国に
  撃てる。発射手順をアクティブにするコードは……駄目だ、言えないっ! ううう、お、俺の心から出て行けーっ! コ、コードは、コードは……」

  「最後のメッセージだ。もし俺が失敗したら誰かこの記録を持ち帰って欲しい。エイリアンの機械の使い方が分かった。連中が地球をどうしようとしているのかも。
  奴らは出来るだけ多くの人間を攫って何やら醜い姿に変えようとしている。奴らの実験の為に何人も殺されたっ! 私達は狭い部屋に閉じ込められている。
  そして1人ずつ実験ラボに連れて行かれるんだ。私はどうにか脱出した。奴らは私の事を探している。救援部隊を送ってくれ。私に分かるのは奴らは数百人捕まえ
  るまでやめないという事だ。もしかしたら数千人かもしれない。しかし良い知らせもある。奴らはテクノロジーに頼りきっている。それがなければ人間よりもひ弱な
  連中だ。充分な武装をした小部隊があればこの船を制圧し、捕虜を救出できると思う。人類に幸運をっ!」


  「なあ、人類は様々な信号を宇宙人と交信する為に送って来た。……あくまで仮の話だぞ? もしもその宇宙人達がこの信号を宣戦布告と受け取ったらどう
  する? 彼らにはそれが夜のニュースではなく宣戦布告に聞こえたんだ。だから先手を打って攻めてきたのだとしたら……どうする?」





  見つめる視線が常に善意だとは限らない。